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メッセージ                        from PI (引原隆士)

総計(Total) (Since 2010: Start (2020.1.1) from 22262):23797 ,今日(Today) :5.

1. はじめに

研究室を主催して以来,年初に私が考えていることをHPに記載して,これから研究室に所属される方,現在所属される方にメッセージを発して来ました.しかし,今年を最後にすることにしました.研究室の運営は,新しい人の参加,現在所属する方の送り出しという,一年を一周期とする形を取っています.これ自体が新しい研究テーマの開始から完成という流れに従ったものでした.しかしながら.研究室の学生の方の大勢が博士課程の指導を中心にシフトし,学部生の方へのアプローチが研究室の主な動きではなくなり、実態から離れてしまいました.学生の方々のSNSでの発信に触れるにつけ,その脊髄反射の様な応答,リアルの精神的な変化に触れて,記載が何も伝えていないことを,最近確認したこともその理由です.

次の20年を託すこれから研究を始められる皆さんに,今私が考えていることを記して終わりたいと思います.

2.研究者のイメージ

殆どの研究の初期において,過去の研究成果を丁寧に勉強することは,その研究の端緒から成果までを再発見する過程,あるいは再定義する過程として非常に重要です.指導者として見せ方は違っても同じテーマを何度も何度も再検討して来ました.それは,あたかも山のガイドの方が何度も何度も同じ途を繰り返し登り,間違いないかを確認しながらまた降りていくことの繰り返しのようなものでした.一方で,新しい道の可能性は,日常の繰り返しの中ではなかなか見いだせません.

自分にまだ登る能力が足りないと思えば,再び繰り返す愚直な真面目さと素直さが必要なとなります.能力は人により異なります.理論,実験技術.,計算技術といった研究の装備も,人により異なります.研究はそれを自ら掴み取ることが目的なのですが,十分な能力ができても,肝心のモチベーションを失い登ることに魅力を感じない状況に陥ってしまうこともあります.まずは,頭が,手が,身体が自然に動くまで,繰り返すことが大切なことです.

学問ではそれをパラダイムと呼びます.パラダイムは,多くの他の考えを自らのものとし,そのなかで出来上がる多くの理論や発見を包含する学理の場です.パラダイムを完成する過程で,大学のカリキュラムが生まれ,学科ができ,そして学会や論文誌が生まれます.それを学ぶために皆さんは大学に来たのです.だからまず,一つの学理を登り切る体力と方向感覚,そして登ったら確実に降りてくる冷静さを,自然にこなせるようにしなければならないのです.その練習の場が大学です.時々ある学会の発表や論文の作成は,その実践の場であり,学生への教育もその体現です.

あたかも,日本の「○○道」を極めるというイメージと重なるため,高貴で崇高な考えに思えます.このようなイメージで育っているのが今のシニアです.そのことを理解しておいて下さい.人は,自分が学んだようにしか人に伝えることはできません.皆さんの主張で変わることはありません.

しかしながら,これだけでは今の科学の進展の中で,歩みをすすめることはできません.これが言いたいことです.

3.研究の変化

何年も前に多くの研究者が挑んでも目的を果たせなかった課題で,その時点での研究の報告(論文)があります.そこに新たに手法を導入し積み上げた結果,新しい価値を見出した課題があります.現代的手法,たとえば,GPS で方角の不安を無くし,常に携帯で安全を担保し,そして不安な時はドローンで確認して動くといった方法で,確実な途をつけ,人が繰り返した結果誰にでも見えるようになり,地図にも載って来ます.それが新しい方法につながります.

果たして今では,過去とまったく違う,データに基づく手法が生まれています.知識のないものが新しい手法で道に迷わない技術が生み出されているのです.この様な単一学理に基づく研究過程を離れて,異なる概念から全く新しい価値が生み出されることをパラダイム・シフトと呼んでいます.研究分野の創生と同じく価値のある仕事がこれです.新しい価値観に導く学理,より一般化したあるいはシステム化した体系を生み出して次元を上げていくような営みとなります.それが皆さんがめざすべきことです.

どうやってパラダイムシフトを作り出すか.それこそが日本の研究者が直面している状況です.過去に一つの道を作り出した欧米の後を丁寧に踏破し,その中の可能性から大きく膨らませて領域拡大をオリジナリティな技術で作り出し,その技術も共に示して,売って来ました.そして論文数や市場を人が気がつく前に占領することができたと言えます.その後にできた確実な道は,誰もが歩める道になっていました.そこに職人的な感や修行はもう意味をなさないことは明らかです.

もちろん,職人的仕事には求道的な価値があります.しかしそれは万人向けのものではなく,技術を養い育てる環境が有ってのもので,時を急ぐ中で非効率なものとなってしまいます.同じものを,短期で作り上げる技術があればそちらが世の中に変化を生み出すことはもはや明らかです.この価値は時間と広がりなのです.同じことが研究にも生じているのです. 

このような変化は,研究をめぐる実世界データの扱いのデジタル化に伴い徐々に進んできました.同じ測定機であればどこでだれが測定しても同じ結果を出す.それこそが科学の再現性の具現化でした.その動きが一挙に高まったのは,技術の汎用化,研究手法の標準化で,蓄積データの量が臨界点を超えたからです.すでに遺伝子工学系では,同一のシーケンサを用いたデータベースに基づき,完全ドライな実験を伴わないインパクトのある論文が出始めています.他の分野はどうでしょうか? 3Dプリンタで応力計算を済ませながら印刷して,衛星打ち上げのロケットの製造までが可能になっています.まさにそういう段階にほとんどの分野が直面しているのです.この動きがこれまでの物理世界を再定義することになるのではないかと考えられます.

この中で先に述べた研究の再確認や訓練は非常に非効率となってしまったことが,容易に想像できます.

3.研究の手法と方向性

電気電子工学科の学生は,現代の電気電子工学のパラダイムを形成する理論を学習し,実験で確かめ,そして研究室ではシミュレーションで確認する.というプロセスを取ってきました.それを繰り返すことの可否を再度問わねばなりません.理論と実験,実験とシミュレーション,そして理論とシミュレーションのいずれかが一致しなければ論文にならないとこれまで学生の指導では基本的に述べてきました.しかし第4の手法として,すべてのパラメータに対して絨毯爆撃的に検討をすることが残されていました.これから起こり得ることは,この最後の手法がまず最初に行う検討になるのです.それだけの計算資源やデータが蓄積されはじめているからです.その上で,新たな軸への価値を探索するシンセシスを考えていいくことが求められるのです.これは誰が計算しても同じ結果が得られ,同じ実験データが得られるという段階に来ているからです.

データ科学という手法を単純に礼賛しているわけではありません.最終的必要なことは,サイバーとフィジカルのインターフェースです.それをシームレスにつなぐことはある精度以上では無理です.そのことが今の技術の限界でもあります.それでも,これまで全く関係付けられなかった分野が繋がり,相互の矛盾が多くの課題にもなります.これが,今求められ,統合化した新しい学理への一歩になる可能性が高いと言えます.

これまで電気電子工学の学生は,まさにそのことだけを学んできたと言えます.今一度,自分が学習したことを再発見してみられることをおすすめします.決してサイバーだけ,フィジカルだけでここまで来たわけではないのです.他の学科のカリキュラムを見ればよくわかります.分野を横断して電気電子工学科が展開する,エネルギー,通信,生体系,デバイス,光,そして宇宙全てにおいて当てはまっているでしょう.そして,将来的には誰もが何も意識せずに,サイバーからフィジカルを,フィジカルからサイバーを使えるようにしていくことが,大きな目標となります.単に一方だけが必要などいう狭量な考えに陥らないことが重要です.

4.おわりに

ここに一つのモデル式,あるいは物理現象,デバイスがあります.そこからあなたの研究生活が始まります.自分が卓越していることを主張するために人がやっていないことを探すのではなく,この式あるいは現象,デバイスに対して,どんな価値を作り出そうかということをまず思い描いて見て下さい.その価値が今までにないことであれば進めれば良い.同じ価値ならその価値を見出している手法を精査し,そこに至る手法にこの式あるいは現象,デバイスからたどりつけるかどうかを考えてみて下さい.

私個人は一つの微分方程式の理解から研究を始めました.その後携わった研究は,実験も,設計したデバイス,システム,ネットワークもすべてそこに由来します.これは一つのモデル式が,非常に広い世界を包含していたからだと思います.その式が非線形偏微分方程式でした.物理,力学,情報がつなぎ生み出す豊かな世界は,計算機が加わっても,生物が加わっても,エネルギーや化学反応に広げても,確率が加わっても,学理として理解し展開が可能でした.それらを包含するパラダイムは閉じてはおらず,非常に豊かで耕しきない開いた領域を持っていました.そこに新たなサイバーな世界が加わり,より広大になりつつあります.

皆さんが足元から遠くに目を向け,楽観的に挑まれることを期待します.

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Last-modified: 2020-01-01 (水) 08:44:21 (225d)