我々の研究室に興味を持つ皆さんへ

研究室選択の一助としてこのホームページをご覧になる方に対して,研究室の指導に関連して本年も私見をまとめてみました.賛否両論有ると思いますが,あえて公開します.

<電気電子工学実験・実習から研究へ>

 京都大学工学部電気電子工学科の研究室配属は,現在電気電子工学科の専門科目および全学共通科目で学生が取得した成績と本人の希望に基づいて決定されて います.2003年までは,学生の皆さんの協議でその方法が決定されてきました.どの方法を取っても,その結果に不満があることは避けれませんが,現状に ついては今後,その結果にもとづいて評価される必要があると思います.

 さて,電気電子工学科の学生が特別研究(卒業研究)に至る前に唯一の必修として電気電子工学実験,実習があります.皆さんが4回生になられたとき, はじめて個人の総合的な能力を問われることになりますが,電気電子工学実験,実習における実験,レポートの繰り返しに対して,いかに真剣にあるいは素直に 学習してこられた(こられなかった)か,如実に現れるといっても過言ではないかと思っています. 残念ながら,現状では多くの方はルーチンをこなすことに徹してこられたためか,それぞれのテーマに対して求められた物理的現象に対する考察 が十分ではないことが多いようです.メインレポーターであるときは,データに対する真摯な検討を訓練する機会を与えられたと考え作業から実験の精度や手法 を検討しながら考察しますが,サブレポーターの時はデータの定性的な特徴から物理的な洞察を行うことになります.しかしながら,現状はどうでしょうか?サ ブレポーターはレポートが休みと考え,実験の作業者に徹しているのではないでしょうか?現在社会人となった先輩方といえども,求められていることを実行で きたわけではありません.しかしながら,重要なことはそういう実験に対して自分なりに何らかを経験し,現象に対する記憶を残すことであると思います.

 情報系,物性系,システム・エネルギー系,・・・それぞれ自分の将来像を描いて勉強し,研究に従事することを希望して学年を進めてこられた4回生は,そ の研究室,研究テーマの選択が将来を決める重要な分岐点となることは言うまでもありません.その希望が叶わないときに皆さんはどうされるでしょうか? 失 望してあきらめる? 妥協して希望を修正する? 人間いたるところ青山・・・として自らを律する? 最後のような学生は最近では少なくなっています.私 は,決して自分の希望を捨てる必要はないと考えます.所詮卒業研究の研究室,テーマ選びにすぎません.自分の電気電子系としての感性を磨き上げるのはどの テーマでも,遜色はないのではないでしょうか? 卒業研究として設定されたテーマに対して,自分がどのようにアプローチできたか,その達成度を自らに問う ことが最も重要なことと考えます.そして,大学院において,あらたな研究室を選ぶことも可能ですし,就職において希望通りの研究に着手することも可能で す.重要なことは,自分の専門能力の幅をどれほど深く,広くするかにあると思います.この点を忘れて,テーマの表面的な人気やはやりで選択をされているこ とはないでしょうか? その結果確かにボキャブラリーとしてその分野に知見を持ったように見えるかもしれませんが,その実何も身についていないことはない でしょうか? 私は,研究者,技術者として大切なことは実験で身に付いた と自分で言えない人は,もう一度,電気電子工学実験・実習とは何であったかを考 えて見られることを希望します.そして,自分の本来の目的・希望に肉薄して行くだけの頑迷な意思を実現して頂きたいと常々思っています.

 最近の四回生の基礎能力不足の状況は目に余るものがあります.電気電子工学関連の基礎科目に関する知識不足は後で補うことは可能ですが,数学,物理,お よび一般教養と呼ばれる技術者および研究者としての資質のバックグラウンドとなる自然科学的教養,さらには論理的思考能力,作文能力は4回生の時点でも, 不十分です.問題は,自分にその能力が不足していることを自覚せずにいる方が多く,研究室配属後その指導のためにかなりの精神力と体力を持って対応せざる を得ない状況となっています.4回生までとそれ以降の勉強で根本的に異なることは,4回生までは無目的の勉強であり,それ以後は合目的な勉強です.理解は 後者が進みます.ところが,新しい現象,テーマに対応できる能力は,前者に基づきます.それを自覚できるのは,博士課程に進学したとき,会社で研究推進を 担当することになったとき等々です.

 4回生の人に申し上げたいことは,自分の将来の希望があるのであれば,4回生までにご自分の幅と深さを意識されることだと思います.自覚して足 りないことがわかれば,自ずと自分が行うべきことは明快です.大学受験まで身に付いた要領の良い勉強を続けている限りは,その先に希望はありません.なぜ なら,学習でない研究に要領は通じないからです.

<研究テーマの創出ついて>  研究テーマをどうやって見いだすのか? 教員となった研究者でもこれがわからない方が多いようです.博士を持っていても,自らテーマが創出でき ない『ドクター・ストップ』状態の方が多いのも事実です.テーマは,身の回りに有るというのは言い過ぎかもしれませんが,工学分野であれば,従来の技術が どういう物理に基づいているかの精査を行えば,その応用展開や類型への展開は可能であろうと思います.そういう,水平展開の研究は工学では常套手段です. ところが,現在,大学でも社会でもオリジナルな研究を求めすぎています.オリジナルとは何でしょうか? 社会基盤を変えるほどのオリジナルな研究は,どこ から生まれるのでしょうか? 過去のオリジナルな研究の精査なくして,本当にオリジナルが何かわかるとは思えませんしまたオリジナル性の評価ができるとは 思えません.その研究分野の本質的な研究成果をくまなく調べることは,研究者として必須の活動です.そして,古典的な研究が理解された後,今はやっている 内容に対してその仮定,結論の限界を見極めることだと思います.いかがでしょうか?

 さて,肝心なことは,テーマの流行ではなく,その分野でのアプローチをどのように学習するかです.多くの場合卒業研究は,与えられたテーマに対して手法 の提示を受け,いかにアプローチするかを学び,演習することです.修士課程は与えられた目標に対して,提示された複数の手法から自らその適切なものを選択 し,どのようにすればその目標に肉薄できるかを 訓練する過程と考えています.論証は重要です.自らがアプローチしているテーマに対して,論理的に矛盾のない議論を組み立てる能力をどのように構築するか が重要です.作業仮説の検証ということを言う方がありますが,それは適当ではありません.なぜなら対象の本質を知らないときに作業仮説が立てられるはずは ないのです.あるのは,すべてをくまなく検討する作業とそれに基づく論証です.そして,博士課程は,その目標自体を自ら設定し,手法の検討の下に成果を世 に問う訓練を行います.それぞれの過程に不可欠な訓練があり,それを一足飛びに卓越した成果を得,世の中の評価を受けることは不可能です. 上述したように自らの希望分野で研究開発をすることが最も重要なことだと思います.そして研究者として,最終段階で対外的に自ら奉仕し,他による認知を得 ていくことも重要です.最も忌み嫌うべき行動は,どこかに何か面白いことはないかと,視点が定まらないまま次から次へと流行のテーマを渡り歩いたり,人の テーマに飛びついてしまうことです.学部・大学院の研究指導のもとで,こういった研究の態度・倫理を学習することを希望します.<br>

<研究者とは>  研究者とは何でしょうか? 京都大学の理科系に進学した方ならば少なからず有名な賞を受賞した研究者にあこがれを抱いて自分の勉強を続けた方が多いと思 います.私もそうです.百万遍の古本屋で福井謙一先生と同じ場所に居合わせて同じ棚を見ていた自分,友人の結婚式で挨拶をたのまれ,そこにおられた有名な 先生に失笑を買ったものの暖かい笑顔の思い出,それらは逆に自分をそこまで持って行きたいというモチベーションになったと思います.どの先生方も,決して その業績にたいして奢らず,初学者の学生に対して真摯に教育してくださったと思います.教育とはそういうものだと思います.京都大学は,On Research Training を実行してきた大学です.その Research は,それぞれ本当に世界に第一線にあると思います.ただ,自分の興味とそれらが一致するチャンスは限られています.先に述べたように,自分の希望(先入 観)にとらわれて生きることも重要ですが,そういうチャンスをものにするために自らの感性を磨くことも重要なことだと思います.大学では,研究者は企業人 ではなく教育者です.教育の中で研究を育み,研究の中で教育を実行する,これを忘れた大学が多すぎるのではないかと思います.京都大学で研究を始めたみな さんは,その点を決して忘れないようにして頂きたいと思います.

<大学院での研究室選択について>  大学院での研究室の選択は,研究の指導者の選択に通じます.自らその考えに共鳴することができる,あるいはその考えに反論することで新しい分野 を構築するに足る相手であるべきだと思います.私は配属された学生に自分の手足を求めることはありません.共同研究者に足る資質を示し,よき研究のパート ナーになって頂くために全身全霊で向かっていきます.そして大学を卒業した社会人と同じ年齢である以上,義務と責務を守った態度を求めています.私どもの 研究室は,この点を前提に選択をしていただきたいと思います.

 我々の研究テーマは Engineering Science であり,主として非線形力学の工学的応用です.その実現がパワーエレクトロニクス,電力システム工学,ハイブリッド,電磁機械系など多岐に展開されます が,基本的には従来の工学システムの線形の枠組みを拡張して新しい電気工学の分野の開拓を目指しています.前例のないテーマになるケースがあり,多くの学 生の方には実験システムの開発,システムのモデル化から制御まで幅広い検討を求めています.研究室を選択される場合は,少なくとも非線形力学への興味,制 御の実験的展開,電力工学への興味などが望まれます.指導者の研究については,それぞれの論文リストから適当なものをダウンロードして読んでいただくこと を希望します.そして,我々の考えを理解いただければと思います.                                                        By 引原 隆士


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Last-modified: 2015-12-28 (月) 12:45:39 (517d)