我々の研究室に興味を持つ皆さんへ

 おそらくこのページをご覧になる方は,他の研究室では何をしているのだろう,自分の研究分野をどこにすればよいのだろう,といった意味で参考になるものを探しておられるものと思います.これに関して,私見を述べます.

 学生のみならず,多くの研究者の方々は,今世の中でもてはやされているテーマ,良く聞くキーワードを含む分野を研究テーマとして行きたいと考えられる方が多いと思います.言うまでもなくそれは既に完成されたテーマであり,勉強を始めた時点の流行のものの見方では,すでに終わったといえるかもしれません.研究者,技術者として第一線に立つまで5年以上の時間的経過が必要であることを考えますと,世の中の興味は大きく変わってしまうことを良く理解しておかれるべきでしょう.もしそのテーマを選ぶとすれば,基礎からもう一度テーマを洗いなおす覚悟を決めて,挑んでいかれるべきでしょう.

 肝心なことは,テーマの流行ではなく,その分野でのアプローチをどのように学習するかです. 多くの場合卒論は,与えられたテーマに対して手法の提示を受け,いかにアプローチするかを 学びます.演習といっても良いかと思います.この時点で研究室や大学を替わる人がいます. そういう人も,すでに卒論の訓練を受けているので,研究室から大学院へ行く人と同様の 訓練を受けていると考えてよいと思います.但し,使う用語や手法の違いが基礎からの勉強を 必要とします.修士課程は,与えられた目標に対して,提示された複数の手法から 自らその適切なものを選択し,どのようにすればその目標に肉薄できるかを 訓練する過程と考えられます.そして,博士課程は,その目標自体を自ら設定し,手法の検討 の下に成果を世に問う訓練をする過程と考えます.それぞれの過程に不可欠な訓練があり,それを 一足飛びに卓越した成果を得,世の中の評価を受けることはなかなか難しいものです. 従って,自らのモチベーションが途絶えない分野で研究開発をすることが最も重要なことだと 思います.そして研究者としては,最終段階で対外的に自ら奉仕し,他による認知 を得ていくことも重要です.最も忌み嫌うべき行動は,どこかに何か面白いことはないかと,視点が定まらないまま次から次へと流行のテーマを渡り歩いたり,人のテーマに飛びついてしまうことです.

 一度ひとつの分野で先端まで出ると,他の分野への洞察も可能になります.その結果,研究の幅を横に広げ,これまでにやってみたいと思ったテーマにまで挑むすることが可能になります.それは一番重要なことであり,次の世代のテーマを構築するのはこういう研究活動であるとも言えます.研究で重要なことは,先生,先輩,他の研究室の人,学外の方と議論することです.そういう環境でこそ新しいものが生まれていきます.どの研究室も日々同じ状態に留まっているようなものではありません.常にアクティブに動いています.そういう活動を通して研究を見られることを希望します.また,人のテーマは良く見えます.論文がたくさん出版できるテーマは研究者として生き始めた者にはうらやましく思えます.でもそれは研究テーマの本質とは何ら関係はありません.一生のテーマとできる課題を見つけたことを幸せに思うことも重要です.

 さて,工学部の研究は得てして応用研究と考えられています.しかし,最終結果が応用かもしれませんが,その対象は自然現象の制御であったり,脳や生体機能の模擬であったり,複雑な人工システムの設計や制御であったりします.それらは,18世紀,19世紀には森や川のように人間の周囲にあった自然と同じように,人間の関わる環境なのです.その現象や環境をSicence の観点で見つめなおすことが最も重要なことです.前世紀の終りまで,人間の扱える知識と能力は平衡点の周辺の分かり易い現象に限られてきました.さらに大域的な空間にまで理解を広げることが必要とされています.その中で,新たなモデルを見出し,再び人間のコントロール化に復させるEngineering Scienceを目指すことは,工学の本質的に取るべき方向だと思います.

                                                       By  引原 隆士


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Last-modified: 2020-09-04 (金) 16:47:40 (1327d)