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*意外に(?) 弱かったエネルギーシステム (2011.4.6 暫定版) [#bc2bdea9]

>暫定版として仮掲載します.責任は自ら負います.

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**状況把握 [#b9a0e2ad]

ここでは今回の地震・津波による災害の規模やその被害を述べることが目的ではありません.まず,電気エネルギーシステムとして現在生じていることの理解を試みます.

東京電力の計画停電の話が出た頃,ある会議で某教授が「電力システムは意外に脆弱だったのですね」とおっしゃったことが記憶が残っています.博士課程の学生の頃,複数の同期発電機(電力システムの大多数の発電機)を連系(電力分野ではこの漢字を使う慣習があります)することを幾度となく繰り返して実験を行った経験から,こんな「ふにゃふにゃのシステム」の状態を維持することはそう簡単なものではない,ということを身体で覚えてしまいました.また,その発電機の状況は回転の音で分かる様にもなってしまいました.しかし,教科書等で学習するシステムは,「無限大母線」という容量が無限大,慣性が無限大の発電機があり,個々の発電機の特性はその無限大母線という基準をもった一自由度の系です.つまり,絶対的な支えのある系として学習しているのです.この系の個々の動作は機械入力と電気出力のつりあいによってまず考え(平衡状態),もし何かが原因でその釣り合いが外れても(脱調,トリップ),無限大母線はびくともせずに対象の発電機だけのダイナミクス(過渡状態)を見れば良いということになります.相手が剛であれば引っ張っても押しても手応えがあり,それに応じて手加減ができますが,相手が柔であるとき,どこまで引っ張って良いのか,このまま押して良いのか?自分の手応えからは決められないと言えばわかるでしょうか.それでも留まっている時はそれなりに釣り合ってバランスを取ることができます.

別の設定を考えます.テニスの練習の壁打ちを想像して下さい(こんな時不謹慎だと言う意見はあるでしょう.しかし人は身近な例でなければ理解は出来ません).壁打ちができるための練習を完璧に完了した後,相手を壁ではなく人間に替えたたとします.テニスをプレーしたことのある人なら,これまで練習して理解して来たボールの跳ね返り,回転,そしてこちらのポジションなどが練習通りに行かないということを経験した人は多いと思います.相手が人になったとたん,壁のような予想可能なものではなく,思わぬ所で打ち込んで来たり,思わぬ所でロブを打たれたりします.壁に対する自分の動きでは予想できないボールの動きとなります.どうすればこれらのボールを受け止め,そして打ち返す事ができるかというのがテニスというゲームの醍醐味だと言えます.スポーツはその不確実な駆け引きが面白さを生みます.そのようなボールの動きがわからないものが試合に出ても全く打つ事も出来ないことは容易に分かります.

現実の電気エネルギーシステムの運用はゲームやスポーツではありません.打ち損ねは許されないのです.あらゆるケースを想定して,その答えを持っていなければいけない・・・それがシステム設計の基本です.2011年3月11日以降の東京電力と東北電力において,原子力発電所という無限大母線に準じる規模の大きな慣性を持つ発電機が,そのシステムから乖離してしまいました.一見,スケールダウンしたら済むと思われるかもしれませんが,根本的に供給と需要の釣り合いを数字の足し算引き算で維持しても,物理的な特性までは維持できるということにはなりません.システムの等価的な慣性はちょっとした変化でそれを維持できないほどほど小さく,また供給容量も小さい状況になってしまいました.

まず,述べないといけないのは,地震直後にシステム全体が安全装置や機器の不具合で離脱する発電機や線路の切り替えに対応して,負荷に電力を送電できる状態を維持したことは,先に身近な例として上げたテニスの例から見ても,何百というプレーヤーが同時に思いがけない玉を打って来た中でよく凌いだという状況です.一時的にプレーを続ける事を維持した現場は大した技量があり,良くシステムが働いたと言って良いと思います.
しかし,問題はそのあとにやって来ました.原子力発電所が回復不能な状況に陥り,多くの火力発電所が停止から復帰できない状態になってしまいました.

被災していない負荷であった都市部の生活の復帰は早く,すぐに災害から平常に戻ろうとする動きを取りました.交通機関の安全が確認され,人が活動を始めどんどん電力の要求が出て来ることになります.利用する個人個人は理性を持っていても,物理法則が決めるシステムの振る舞いは,暴力的と言える程弱ったシステムには過酷です.いやおうなくシステム維持のため供給義務(プレーを続けること)を要求します.これが同時同量の宿命を持った電気回路の物理です.この結果,負荷を放棄して電気機械系のバランスを維持することが選択せざるを得なくなりました.すなわち,停電という状況を意図的に作り出さざるを得なくなったのです.これは,元のシステムおよびネットワークでは電力供給を維持できないということを供給側が認め,義務を放棄したことを意味します.

これまで,事故時の過渡状態でも運転継続できることを主たる目的として開発されてきた発電機,システムの制御系は,立派に働いたと言えると上に述べました.これは発電機の運動方程式が成立する範囲においてです.今ある問題は,運動方程式ではなく代数方程式の世界です.負荷が要求する電力と発電可能な電力の量が見合わない.要するに,システムの構成が成立しないのです.これは,システムやネットワークが弱いというのではなく,大容量の電源が消失するという中で,個々の負荷を供給側は制御する方法を持っていないために,そのやり取りを開始する事も出来ないということになってしまいました.

なぜそのようなことになったかという根本はなんでしょうか? これは,科学でも工学でもないというのが私の意見です.代数方程式は,その量の代数計算が即電力会社の収入に絡むものであり,いかに安くバランスを取り,いかにそれを維持する経費を下げるかが利益につながります.そのような経営の中で,それらの積み上げた量が一挙に消える状況というものを想像だにしなかったということでしょうか.利益率を上げるために予備電力さえもフルに準備していない.これが実態ではないでしょうか? 今の企業の収益を上げる体制は今会社に居る彼らが築いたものではありません.これまでに何十年とトラブル無く積み上げて来た信用が築いたものであり,それを失った今求める収益が無いというのは当然のことです.自ら信用をリスクに置き換えて削りながら収益を上げて来たといったら分かりやすいと思います.

意外に?弱かった電力ネットワーク というのは正しい理解ではありません,バックアップや安全を見越した多重のシステム設計を,別の理由,主にはお金の問題でしていなかったということに過ぎないと思います.今しきりに報道されている大停電は,システムが不安定なのではありません.電力システムは意識しないで良い程単純明快なシステムとしては最適化され平和な状態では非常に良い収益の上がるビジネスモデルでした.単に原料単価とコストだけを監視していれば良いのです.でもそれは物理ではありません.これを空気で考えれば,あなたは今から1時間空気が来ませんが我慢して下さいと言えるでしょうか? 自らその供給義務を放棄したシステムは,現状で当たり前の様に人に利用を命ずる権利はないと言えないでしょうか? 自らの存在である義務を放棄するという現状において,何を維持するために行っているのかを既に見失ってしまっているように思います.

**電力ネットワークの歴史的発展 [#af3217bb]

ここでは,電力事業の発展の歴史に基づき,その中から学べるものを書き出して行くつもりです.

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